2023年度における王子グループの総取水量は695百万m3、総排水量は672百万m3、水消費量は23百万m3でした。グループ全体の取水原単位を2030年度には2018年度対比6%以上削減することを目標にグループ全体で水資源の有効活用に取り組んでいます。中でも総取水量の約8割を占める王子製紙、王子マテリア、王子エフテックス、王子ネピアの各社は、2030年までの具体的な削減計画を立案し、取り組んでいます。サステナビリティ推進委員会の事務局は、四半期ごとに各社から削減実績の報告を受け、年に2回、サステナビリティ推進委員会にて取締役への報告を実施しています。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2018年度 対比(%) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
取水量(百万m3) | 740 | 737 | 706 | 714 | 710 | 695 | - |
取水原単位(千m3/百万円) | 0.48 | 0.49 | 0.52 | 0.49 | 0.42 | 0.41 | -14.2% |
排水量(百万m3) | 708 | 701 | 672 | 676 | 673 | 672 | - |
水消費量(百万m3) | 32 | 36 | 38 | 34 | 37 | 23 | - |
工場で使用する水については、河川等の地表水の他にも地下水や第三者機関(工業用水他)を取水先とすることにより、リスクの分散を図っています。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
地表水(河川・湖沼他)(百万m3) | 488 | 483 | 463 | 466 | 453 | 443 |
地表水(海)(百万m3) | 10 | 10 | 9 | 9 | 9 | 9 |
地下水(百万m3) | 137 | 133 | 128 | 127 | 131 | 128 |
第三者機関(百万m3) | 106 | 111 | 106 | 112 | 117 | 115 |
当社グループのすべての事業場では、水管理計画を策定し、取水や排水量、排出時の水質や水温などを管理しています。さらに、水資源の有効活用と環境負荷の低減に向け、節水を含む取り組みを行っています。また、サステナビリティ推進部では、毎年、全事業場の環境データ(取水量、排水量など)および節水対策事例を収集し、有効な対策を各事業場へ水平展開しています。
紙・板紙の製造工場では、パルプ蒸解、洗浄、漂白、調整、抄紙といった生産工程全体で多くの水を使用しています。しかし、各工程の水は回収され、浄化処理を行った後に再利用(リサイクル)されています。さらに、抄紙工程の最終段階である乾燥(蒸気による乾燥)に使用される水も回収され、再利用されています。
世界資源研究所(WRI)の水リスク評価ツールAQUEDUCTでは、Water Risk Baseline Water Stressという指標を使用して、水の利用における他の利用者との潜在的な競合の程度を5段階で評価しています(Extremely High、High、Medium to High、Low to Medium、Low or No data)。評価が高いほど、競争が激しくリスクが高まります。
Aqueductについて詳細はこちら
王子ホールディングスグループ各社では上記AQUEDUCT評価を参照し、各事業所でリスク低減の取り組みを実施しております。
以下、その代表例を示します。
2023年度にグループ入りしたIPIは、グループ入り直後にボイラー冷却塔の更新とRO膜処理設備の導入を行いました。これより、生産に使用する水(硬水)の軟水化処理で発生していた排水中の塩化物イオンを抑えられると同時に、水の使用量の削減が実現されました。
江蘇王子製紙は、欧州委員会が環境保護の目的で、紙・パルプ製造において推奨している「利用可能な最善の技術」を実施することで、大幅に水の使用量を削減しています。
王子マテリア大阪工場は、上述の「利用可能な最善な技術」の下記技術を採用し実施しています。その結果、板紙の生産量(トン)に対する水使用量(m3)の原単位(m3/トン)を一桁台まで低減し、業界トップクラスの高い水使用効率を誇っています。
技術情報の詳細は、Best Available Techniques (BAT) Reference Document for the Production of Pulp, Paper and Board (europa.eu)を参照。
セニブラでは冷却水を回収し用水として有効利用を図っている他、今後、工場の近代化プロジェクトの中で熱回収効率を高める設備投資を進め、蒸気の最適化による水使用量のさらなる削減が期待されます。
様々な製造プロセスで発生する未利用の排水を再利用可能とする水処理設備の新規設置等の実施。
王子製紙、王子マテリアの各工場では、上述の「利用可能な最善の技術」で推奨されている排水の高度な処理(BATに基づく、排水三次処理BAT.7.3.12)を実施し、また、排水規制値に対してさらに厳しい自主管理値を設定して、排水の浄化に取り組んでいます。
上述の通り、生産に使用する水(硬水)の軟水化処理において、2023年にイオン交換樹脂からRO膜処理設備への変更を行いました。この変更により、排水中の塩化物イオンの発生が抑えられ、排水の浄化が実現されました。
なお、2023年度の排水処理など水関連で必要となった費用および投資の総額は、それぞれ7,834百万円と797百万円でした。
また、排水処理に関して、処理水質の改善と安定化、操業コストと操業管理の最適化を図るため、遠隔監視とAIを活用した高度な排水処理技術の開発をグループ内で開始し、今後の貢献が期待されます。
江蘇王子製紙の生産工程で発生する排水は、排水規制値未満となる浄化処理の後、南通経済技術開発区能達水務有限公司に送水し、各種処理工程を経て、全て中水として、当開発区にて利用されています。
中水とは、上水でも下水でもなく中間的な位置付けであり、工業用水として使用されるものです。
近年の気候変動による水資源の枯渇や洪水による水害などは、事業の継続性だけでなく、事業を展開する地域社会での産業や人の健康にも大きなリスクをもたらします。王子グループでは、事業展開における水リスクを把握するため、世界的な環境研究機関である世界資源研究所(WRI)の評価を参考にしています。
グループの全308 事業場の水リスクを、WRI の水リスク評価ツールであるAQUEDUCTを使って分析した結果、水リスクの高い地域(Baseline Water Stress がExtremely high およびHigh)に立地する事業場は21ヵ所でした。
これら21の高リスク事業場を対象に、財務上の影響と水リスクの実態について調査を行いました。
その結果、これらの高リスク事業場での取水量と水消費量はグループ全体の1%未満と2%未満、生産量は全体の2%でした。また、水リスクによる潜在的な財務上の影響を分析するため、これらの事業場が水不足により閉鎖を余儀なくされるシナリオを想定した結果、売上高と資産はいずれもグループ全体の4%程度に過ぎないことから、財務上の影響は低いと見積もられました。
なお現在、水関連リスクを軽減するために、水処理技術の開発を研究テーマに挙げ、年間約3千万円の投資を行っています。将来的には、水リスクの軽減や新たな水関連ビジネスの展開によって、グループ全体の安定性と成長に貢献する可能性があります。
2023年度 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業場数※2 | 取水量 (千m3) |
水消費量※3 (千m3) |
生産量 (千トン) |
売上高 (億円) |
資産 (億円) |
||||||
Low(<10%)or No data | 70 | 342,312 | 49% | 7,908 | 35% | 6,594 | 44% | ||||
Low to medium(10-20%) | 122 | 215,140 | 31% | 4,529 | 20% | 4,484 | 30% | ||||
Medium to high(20-40%) | 95 | 135,898 | 20% | 9,754 | 43% | 3,607 | 24% | ||||
High(40-80%) | 4 | 1,254 | 0% | 266 | 1% | 103 | 1% | 716※4 | 4% | 908※4 | 4% |
Extremely high(>80%) | 17 | 217 | 0% | 88 | 0% | 209 | 1% | ||||
合計 | 308 | 694,820 | 100% | 22,545 | 100% | 14,998 | 100% | 16,963※5 | 100% | 24,425※5 | 100% |
水リスクが高いと評価された事業場に対して、水不足や洪水などが操業に与える影響や発生頻度、また取り組み事例について、毎年ヒアリングを実施しています。
2023年度のヒアリングの結果、いずれの事業場も生産や操業に関する問題は発現しておらず、顕在化した水リスクは確認されませんでした。しかし、事業場では、水使用量の削減を目指した自主的な取り組みの実施の他、ステークホルダーと協働した水使用量の削減や、公共機関の水資源保全活動への参加など、環境保護に関する積極的な行動も報告されました。
水リスク評価 | 国 | 事業場数 | 水不足による操業への影響の有無 | 洪水による操業への影響の有無 | 水リスク低減の対策 | 自治体や関連組織、またサプライチェーンと協働する活動など |
---|---|---|---|---|---|---|
Extremely High | 中国 | 6 | 無 | 無 |
|
- |
インド | 5 | 無 | 無 |
|
|
|
タイ | 4 | 無 | 無 |
|
|
|
イタリア | 2 | 直近10年なし | 直近10年なし |
|
- | |
High | インドネシア | 2 | 直近10年なし | 直近10年なし | - |
|
ドイツ | 1 | 無 | 無 |
|
|
|
オーストラリア | 1 | 無 | 無 |
|
- |
なお、21事業場はいずれも⾃社処理、あるいは契約により工業団地所有の排水処理設備で処理し、排⽔量や排⽔中の環境負荷物質をモニタリングし、定期的に⾃治体や⽔資源管理機関へ報告しています。
さらに、21事業場は王⼦グループの環境監査対象事業場であり、これまで法令違反事例や重⼤な環境事故は発⽣していません。
詳細は、「環境コンプライアンスの推進」をご覧ください。
以上により、リスク評価で高リスクと判定されました事業場に関して、現状においてはいずれも低リスクであることを確認しました。
水資源は、森林や生物多様性とともに地域共有の資源であり、持続可能な資源利用が望まれます。特に、生産事業場は生産に不可欠な水資源に関し、積極的に地元ステークホルダーと水利用や節水、水資源保全等について対話を行っています。
セニブラは、民間企業の代表として、地元の河川流域委員会や森林対話協議会に参加し、森林セクターの発展や水資源、天然資源・生物多様性の保全のための戦略構築に貢献しています。
水リスクサイトでの取り組みの一つとして、ドイツ・KANZAN社が所在するDüren市の水資源管理・排水処理はWVERが管轄しており、同協会は同エリアに居住する住民及び企業が会員となり参画・運営されている公的機関になります。同協会の役割は地域での安定的な給水・排水処理の他に、水資源の保全活動も担っており、KANZANは会員として会議体に出席し活動に関与しています。
王子製紙富岡工場や米子工場などは、それぞれ那賀川南岸土地改良区水利組合等、日野川流域水利用協議会に参加し、夏の水不足期においては、地域の農業での水利用を優先させるために、ダムの貯水率に応じた取水量の制限に協力して節水に取り組んでいます。
王子エフテックス芝川工場は、地域の漁業組合と水利使用に関する覚書を取り交わし、周辺の環境や水生動植物の保全に協力してます。
CENIBRA社は、ブラジル・ミナスジェライス州のドセ川流域から取水して、ユーカリの植林・パルプ事業をしています。近年、周辺地域で降雨の少ない年が続き、渇水の危機が地域全体の懸念となっていたため、同社は各取水場所での定期水量調査等から影響の大きい支流域を特定し、地域の公的機関や住民と協力して、水源の涵養と汚染防止による公衆衛生の改善に向けた以下の取り組みを継続的に行っています。
2018年に取り組み開始以来、2023年までに自社林内100ヶ所に貯水池を設置しました。これにより合計100万㎥を超える貯水が可能となり、雨季に貯水した水がゆっくりと地下に浸透する事で水源涵養にもつながります。これらの貯水池は地域住民も利用できるように場所を選定しており、水資源の利用にあたり地域社会との調和を図っています。
近年、自社林内の重機作業で踏み固められた土壌に植付け前の鋤入れ作業による心土破砕を行い、雨水の土中への規則的な浸透を促し、植林木の成長改善を図ってきました。現在はさらに、この技術と知見を特に牧畜を営む地域の農家やCENIBRA社にパルプの原料となる原木を納入している農家に広める活動を行っており、放牧地における地下水涵養機能の回復、土壌浸食低減による水質改善に貢献しています。
このプロジェクトでは、牧畜などを営む第三者の所有地において、水源の周辺を保護柵で囲む活動を行っています。水源の周辺は、ブラジル森林法で永久保護区として指定されており、土地所有者はこのエリアの植生を保護する義務があります。しかし、地域の小規模生産者の多くは、適切な保護方法に関する知識の不足や経済的な制約のため、十分な保護ができていませんでした。そこで、CENIBRA社がイニシアティブを取り、水源保護を優先するドセ川支流域を特定し、同地域の小規模生産者に対して活動への協力を呼びかけ、保護柵の資材・技術提供や設置などをする活動を開始しました。柵で囲まれたエリア内には、それまで自由に出入りしていた家畜が侵入できなくなるため、水源の汚染が防がれ、植生が自然に回復します。この活動により、2017年から2023年にかけて、ペサーニャ市の全ての水源地を含む1,300ヘクタール以上の永久保護区が保護されました。環境への好影響に加え、このプロジェクトは小規模生産者の水資源と生物多様性の保全に対する意識向上にも大きく貢献しました。また、CENIBRAとペサーニャ市および地域社会との良好な関係構築にも繋がりました。