Environment 環境

水資源の有効活用と水リスクへの取り組み

目標

目標

  • 取水原単位の削減
  • 2018年度対比6%以上の削減

2030年度目標に向けた継続的改善

2022年度における王子グループの総取水量は710百万m3、総排水量は673百万m3、水消費量は37百万m3でした。グループ全体の取水原単位を2030年度には2018年度対比6%以上削減することを目標にグループ全体で水資源の有効活用に取り組んでいます。中でも総取水量の約8割を占める王子製紙、王子マテリア、王子エフテックス、王子ネピアの各社は、2030年までの具体的な削減計画を立案し、取り組んでいます。サステナビリティ推進委員会の事務局は、四半期ごとに各社から削減実績の報告を受け、年に1回、サステナビリティ推進委員会にて取締役への報告を実施しています。

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  2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2018年度
対比(%)
取水量 (百万m3 740 737 706 714 710 -
取水原単位(千m3/百万円) 0.48 0.49 0.52 0.49 0.42 -12.9%
排水量 (百万m3 708 701 672 676 673 -
水消費量(百万m3 32 36 38 34 37 -
  • 2022年度実績は第三者保証を受けています。

工場で使用する水については、河川等の地表水の他にも地下水や第三者機関(工業用水他)を取水先とすることにより、リスクの分散を図っています。

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  2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
地表水(河川・湖沼他)(百万m3 488 483 477 480 467
地下水(百万m3 151 147 128 127 131
第三者機関(百万m3 101 106 101 107 113

水資源の有効活用(節水への取り組み)

当社グループのすべての事業場では、水管理計画を策定し、取水や排水量、排出時の水質や水温などを管理しています。さらに、水資源の有効活用と環境負荷の低減に向け、節水を含む取り組みを行っています。また、サステナビリティ推進部では、毎年、全事業場の環境データ(取水量、排水量など)および節水対策事例を収集し、有効な対策を各事業場へ水平展開しています。

紙・板紙の製造工場では、パルプ蒸解、洗浄、漂白、調整、抄紙といった生産工程全体で多くの水を使用しています。しかし、各工程の水は回収され、浄化処理を行った後に再利用(リサイクル)されています。さらに、抄紙工程の最終段階である乾燥(蒸気による乾燥)に使用される水も回収され、再利用されています。

水リサイクルの取り組み事例

世界資源研究所(WRI)の水リスク評価ツールAQUEDUCTでは、Water Risk Baseline Water Stressという指標を使用して、水の利用における他の利用者との潜在的な競合の程度を5段階で評価しています(Extremely High、High、Medium to High、Low to Medium、Low or No data)。評価が高いほど、競争が激しくリスクが高まります。
Aqueductについて詳細はこちら
王子ホールディングスグループ各社では上記AQUEDUCT評価を参照し、各事業所でリスク低減の取り組みを実施しております。
以下、その代表例を示します。

IPI(イタリア):Extremely High

2023年度にグループ入りしたIPIは、グループ入り直後にボイラー冷却塔の更新とRO膜処理設備の導入を行いました。これより、生産に使用する水(硬水)の軟水化処理で発生していた排水中の塩化物イオンを抑えられると同時に、水の使用量の削減が実現されました。

江蘇王子製紙(中国):Medium to High

江蘇王子製紙は、欧州委員会が環境保護の目的で、紙・パルプ製造において推奨している「利用可能な最善の技術」を実施することで、大幅に水の使用量を削減しています。

王子マテリア大阪工場:Low to Medium

王子マテリア大阪工場は、上述の「利用可能な最善な技術」の下記技術を採用し実施しています。その結果、板紙の生産量(トン)に対する水使用量(m3)の原単位(m3/トン)を一桁台まで低減し、業界トップクラスの高い水使用効率を誇っています。

6.3.2
汚染されたプロセス水からのシール水及び冷却水の分離と水の再利用
6.3.3
最適な水管理、水ループの分離と配置、向流、工程内白水清澄化
6.3.5
プロセス水からのカルシウムの除去
6.3.6
汚水浄化槽の設置及び排水の一次処理
6.3.11
白水(微細な繊維を含んだ水)の清澄化
6.3.12
殺生物剤の排出を最小化する方法を用いたバイオフィルムの予防及び除去
6.3.13
効果的な廃棄物・汚泥の処理および現場での脱水処理

技術情報の詳細は、Best Available Techniques (BAT) Reference Document for the Production of Pulp, Paper and Board (europa.eu)を参照。

CENIBRA(ブラジル):Low

セニブラでは冷却水を回収し用水として有効利用を図っている他、今後、工場の近代化プロジェクトの中で熱回収効率を高める設備投資を進め、蒸気の最適化による水使用量のさらなる削減が期待されます。

Oji Fibre Solutions(ニュージーランド):Low

様々な製造プロセスで発生する未利用の排水を再利用可能とする水処理設備の新規設置等の実施。

水資源の有効活用(排水浄化への取り組み)

王子製紙、王子マテリア各工場

王子製紙、王子マテリアの各工場では、上述の「利用可能な最善の技術」で推奨されている排水の高度な処理(BATに基づく、排水三次処理BAT.7.3.12)を実施し、また、排水規制値に対してさらに厳しい自主管理値を設定して、排水の浄化に取り組んでいます。

IPI(イタリア)

上述の通り、生産に使用する水(硬水)の軟水化処理において、2023年にイオン交換樹脂からRO膜処理設備への変更を行いました。この変更により、排水中の塩化物イオンの発生が抑えられ、排水の浄化が実現されました。

なお、2022年度の排水処理など水関連で必要となった費用および投資の総額は、それぞれ7,788百万円と848百万円でした。
また、排水処理に関して、処理水質の改善と安定化、操業コストと操業管理の最適化を図るため、遠隔監視とAIを活用した高度な排水処理技術の開発をグループ内で開始し、今後の貢献が期待されます。

水資源の有効活用(排水の有効利用)

江蘇王子製紙(中国)

江蘇王子製紙の生産工程で発生する排水は、排水規制値未満となる浄化処理の後、南通経済技術開発区能達水務有限公司に送水し、各種処理工程を経て、全て中水として、当開発区にて利用されています。
中水とは、上水でも下水でもなく中間的な位置付けであり、工業用水として使用されるものです。

江蘇王子製紙(中国)での排水の有効利用

水リスクへの取り組み

水リスクへの取り組み

水リスクの評価と対応

近年の気候変動による水資源の枯渇や洪水による水害などは、事業の継続性のみならず、事業を展開する地域社会での産業や人の健康などに大きなリスクを生じます。王子グループでは事業を展開する上で、世界的な環境研究機関である世界資源研究所(WRI)による評価をもとに事業における水リスクの把握に努めています。
全290事業場の水リスク評価について、WRIの水リスク評価ツールAQUEDUCT(3.0)を基に分析すると、水リスクの高い地域(Extremely highおよびHigh)に立地する事業場は14ヶ所でした。
14ヶ所の事業場における取水量と生産量はそれぞれ全体の1%未満と2%程度でした。また、水リスクの潜在的な財務上の影響として、当該事業場が水不足により閉鎖を余儀なくされるというシナリオに基づき分析した結果、売上高はグループ全体の4%程度に過ぎないことから、その影響は「低い」と見積もられました。
なお現在、水関連リスクを軽減するために、水処理技術の開発を研究テーマに挙げ、年間約3千万円の投資を行っています。将来的には、水リスクの軽減や新たな水関連ビジネスの展開によって、グループ全体の安定性と成長に貢献する可能性があります。

水リスクの評価※1
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  2022年度
事業場数※2 取水量
(千m3
生産量
(千トン)
売上高
(億円)
資産
(億円)
Low(<10%)or No data 74 277,907 39% 6,737 45%        
Low to medium(10-20%) 109 306,501 43% 5,179 35%
Medium to high(20-40%) 93 123,865 17% 2,801 19%
High(40-80%) 7 1,520 0% 136 1% 636※4 4% 690※4 3%
Extremely high(>80%) 7 173 0% 144 1%
合計 290 709,966 100% 14,997 100% 17,066※3 100% 22,960※3 100%
  • ※1WRIの水リスク評価AQUEDUCT(3.0)でのWater Risk Atlas Baseline Water Stressの5段階評価:水利用における他の利用者との潜在的な競合の度合いを示し、値が高いほど、競争が激しくリスクが高い。Aqueductについて詳細はこちら
  • ※2製品製造に関わりのない本社、営業所等の事業場は除いている。
  • ※3売上高合計17,066億円および資産合計22,960億円は、それぞれグループ全体の合計。
  • ※4水リスクの高い地域(HighおよびExtremely high)に立地する事業場を所有する会社の売上高および資産の小計、またグループ全体の売上高および資産に対する比率。

高リスク事業場の実態調査

水リスクを統括管理するサステナビリティ推進部は、2021年度、水リスクが高いと評価された13事業場に対し、水リスクの影響や発生頻度、並びに取り組み事例をヒアリングしました。
この結果、

  • 水リスクが極めて高い6事業場: 「水不足リスクや洪水リスクによる生産や操業への影響はこれまでありませんでしたが、近年の降雨パターンの変化により、3事業場が水不足リスクを、4事業場が洪水リスクを懸念している」との回答が得られました。尚、水リスクが極めて高い6事業場の取水源は工業用水と上水が取水量の98%を占めます。
  • 水リスクが高い7事業場: 「これまで洪水による生産や操業への影響はなく、いずれの事業場でも洪水リスクはない」との回答が得られました。
2021年度、水リスクに対する13事業場のヒアリング結果
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水リスク評価 国別、事業場数 水不足リスクの有無 洪水リスクの有無 水リスクの発生頻度
有り 無し 有り 無し 高い/毎年 低い/非常にまれ
極めて高い インド 4 1 3 2 2 1 3
タイ 2 2 0 2 0 0 2
高い 中国 4 - - 0 4 - -
タイ 1 - - 0 1 - -
ベトナム 1 - - 0 1 - -
ドイツ 1 - - 0 1 - -

なお、13事業場はいずれも⾃社処理、あるいは契約により工業団地所有の排水処理設備で処理し、排⽔量や排⽔中の環境負荷物質をモニタリングし、定期的に⾃治体や⽔資源管理機関へ報告しています。

  • 水消費量の監視、水消費量削減や水質汚染削減等の啓蒙活動の実施
  • 雨水利用、自社井戸水の使用(使用量増加の申請中)
  • 自治体や政府機関への水消費量・排水量・水質管理等のデータの提供
  • 排水堰板の設置箇所の拡大
  • 公的機関への水資源保全活動への参加

さらに、13事業場は王⼦グループの環境監査対象事業場であり、これまで法令違反事例や重⼤な環境事故は発⽣していません。
詳細は、「環境コンプライアンスの推進」をご覧ください。

これにより、過去の水不足や洪水の発生状況、水使用量等詳細な調査を実施し、13事業場はいずれも低リスクであることを確認しています。

水関連ステークホルダーとの関わり

水資源は、森林や生物多様性とともに地域共有の資源であり、持続可能な資源利用が望まれます。特に、生産事業場は生産に不可欠な水資源に関し、積極的に地元ステークホルダーと水利用や節水、水資源保全等について対話を行っています。

CENIBRA(ブラジル)

セニブラは、民間企業の代表として、地元の河川流域委員会や森林対話協議会に参加し、森林セクターの発展や水資源、天然資源・生物多様性の保全のための戦略構築に貢献しています。

KANZAN(ドイツ)

水リスクサイトでの取り組みの一つとして、ドイツ・KANZAN社が所在するDüren市の水資源管理・排水処理はWVERが管轄しており、同協会は同エリアに居住する住民及び企業が会員となり参画・運営されている公的機関になります。同協会の役割は地域での安定的な給水・排水処理の他に、水資源の保全活動も担っており、KANZANは会員として会議体に出席し活動に関与しています。

王子製紙

王子製紙富岡工場や米子工場などは、それぞれ那賀川南岸土地改良区水利組合等、日野川流域水利用協議会に参加し、夏の水不足期においては、地域の農業での水利用を優先させるために、ダムの貯水率に応じた取水量の制限に協力して節水に取り組んでいます。

⽔資源マネジメントの取り組み

CENIBRA(ブラジル)

CENIBRA社は、ブラジル・ミナスジェライス州のドセ川流域から取水して、ユーカリの植林・パルプ事業をしています。近年、周辺地域で降雨の少ない年が続き、渇水の危機が地域全体の懸念となっていたため、同社は各取水場所での定期水量調査等から影響の大きい支流域を特定し、公的機関とも協力しながら、地域の水源涵養のために以下の活動を行っています。

森林内の貯水池設置

2018年に取り組み開始以来、2022年までに自社林内100ヶ所に貯水池を設置しました。これにより合計100万㎥を超える貯水が可能となり、雨季に貯水した水がゆっくりと地下に浸透する事で水源涵養にもつながります。これらの貯水池は地域住民も利用できるように場所を選定しており、水資源の利用にあたり地域社会との調和を図っています。

森林内の貯水池設置

土壌への鋤入れ

近年、自社林内の重機作業で踏み固められた土壌に植付け前の鋤入れ作業を行い、雨水の土中への規則的な浸透を促し、植林木の成長改善を図ってきました。現在はさらに、この技術と知見を特に牧畜を営む地域の農家やCENIBRA社にパルプの原料となる原木を納入している農家に広める活動を行っており、放牧地における地下水涵養機能の回復、土壌浸食低減による水質改善に貢献しています。

土壌への鋤入れ

流域農家の土地への浄化槽の設置

事業エリア内の河川の水質改善と近隣地域全体の公衆衛生指標の改善を目的として、2019年開始以降、浄化槽220基を寄贈、設置しました。この浄化槽は、同社が実施している「林業振興プログラム」の協力事業者をはじめとした農家の家庭排水処理に使用されています。

浄化槽の第三者への提供